蔵前にあるユニークな文具店『カキモリ』。表紙や中紙を選んで自分だけのオーダーノートやインクをつくれることが話題になり、多くの人に注目されています。インターネットが普及したいま、私たちにとって「自分の手で書く」という行為はちょっと特別なものになりつつあるのかもしれません。今回は「たのしく、書く人。」というコンセプトを持った『カキモリ』が生まれた経緯と蔵前の街について、代表の広瀬琢磨さんにお話をうかがいました。
「書くきっかけ」をつくるお店。
お気に入りの文具で「書く」時間を楽しんでもらいたい
――お店をつくったきっかけとコンセプトを教えてください。
広瀬さん(以下省略)「まずコンセプトは『たのしく、書く人。』です。やはり今は文字を書く機会が減ってきていると思いますが、書くことの大事さや楽しみを伝えていきたいと思って。そのきっかけをつくるお店をやっています。きっかけづくりのためにペンもありますし、ノートが作れたり、手紙を書くために手紙をいろいろカスタマイズしたり。最近では隣でインクがオーダーできるようにして、書くきっかけの切り口をいろいろ広げています。」
――書くことに対しての思い入れは昔からお持ちだったのですか。
「そうでもないですね。一般の人と同じくらいの感覚かなと思っています。実家が文房具屋だから文房具にかこまれて育ってはいるんですが、世の中の流れとして書くきっかけは減ってきているし、会社の業務ではうちもかなりIT化してきています。ただ、それとは別の次元で『ペンで紙に書く』ということは大事なことであると感じて、文房具屋としてその価値を提案していきたいなと思いました。」
職人とお客様をつなぐ場所。
――お店をつくるにあたって、蔵前という土地を選んだ理由はありますか。
「オープンした2010年の頃から馬喰町で問屋をリノベーションしたギャラリーができたりという流れがあったのですが、家賃が手頃な浅草のあたりに行こうかなと思って。蔵前はちょっと抜け感があって、調べていくと職人の街であることを知り、職人さんとお客様をつなぐようなことをできるかなと思ってここを選びました。」
懐かしいけど、新しい。
――内装もかなりこだわっていらっしゃいますね。
「そうですね。一般的な小売店としては、内装はかなりこだわっているほうだと思います。カキモリをつくるときに設計士とアートディレクターに入ってもらって、私がやりたいと思ったことを形にしました。ここのヘリンボーンは色鉛筆のイメージです。製本をする作業場は、相談したときに『絶対前に出したほうがいい』と言われて、外から見える”蕎麦屋形式”にしています。設計士は蔵前らしいけど蔵前らしくない、下町っぽいけど下町っぽくないイメージと言っていました。色鉛筆も、昔からある懐かしいものだけどちょっと新しいものを生み出すようなイメージが重なって、こういう内装になっています。」
蔵前は新旧まじわる「新しい下町」。
――広瀬さんの思う「蔵前らしい」とは何でしょうか。
「下町の生活が根ざしていて、横のつながりがしっかりしている部分。でもそれに凝り固まっていなくて、新しく輪に入ってこようという人たちを受け入れてくれる土壌がある場所なのかなと思っています。昔からの古いものを守りつつも、新しさを取り入れていくような新しい下町だと思います。」
――古いものを守りつつ、新しさを取り入れていく点はまさにカキモリさんのコンセプトにマッチしていますね。蔵前でお店を営む中で、嬉しかったエピソードがあれば教えてください。
「地元の人が最近『蔵前土産』として商品を買ってくれることが増えてきたり、外からお客さんがきたときに「蔵前ってこういう街なんだよ」と、うちのマップを持って街を歩きまわったりしてくれて。街にようやく溶け込んできたんだなと思えて、嬉しいですね。自転車で通ってくれるコアなお客さんや、地元の方も多いです。」
人とのつながりを感じるのが好きなら、蔵前は楽しい。
――カキモリが地元の方々に愛されている様子がよく伝わってきます。最後に「蔵前が好き」「蔵前をもっと知りたい」という人に向けてひとことお願いします。
「2010年にオープンしてから、新しいお店ができたことで外からのお客様が増え、蔵前に住む人もおそらく増えていると思います。あえて下町に住むのであれば、それを楽しんでほしくて。お店の人とコミュニケーションをとったり、新しい人たちとも昔からいる人とも、人とのつながりを感じられる場所が好きであれば蔵前は楽しいと思います。自分から積極的に話しかけることが大事ですね。肩肘はらず、気軽にきてほしいです。」
「たのしく書く」ことのワクワクと大事さをお店全体で伝えてくれるカキモリ。書くことを通じて暮らしを豊かにすることはもちろん、訪れた人に蔵前という街を楽しんでほしいという想いが伝わってきました。カキモリの隣に設けられたインクスタンドは11/1にリニューアルオープン、季節のイベント用のギフトにぴったりの限定アイテムを販売するなど、通っていく中でまだまだ新しい発見がありそうです。お店の雰囲気、商品へのこだわりなど、文房具好きにはたまらない空間。ぜひ足を運んでみてくださいね。
カキモリ
【住所】東京都台東区蔵前4-20-12
【営業時間】火~金曜 12:00-19:00/土・日・祝日 11:00-19:00
【定休日】月曜(祝日は営業)
【公式サイト】http://www.kakimori.com/