玄関の「上がり框(あがりかまち)」、どの部分のことを指すかご存知ですか。馴染みのない方も多いかもしませんが、実は多くのお宅の玄関で見ることができます。
毎日使う玄関は、見た目のよさと使いやすさを両立できるつくりにしたいもの。毎朝家を出るときや帰宅時、来客時など、玄関がお気に入りの空間だと気分がよくなりますよね。
今回は「家の顔」とも呼ばれる、上がり框についてご紹介します。
目次
- 上がり框(あがりかまち)とは
- 上がり框(あがりかまち)を設置するメリット・デメリット
- 上がり框のデザイン
- 上がり框の素材
- こだわりの「上がり框」があるリノベーション事例
- 毎日の「ただいま」が楽しみになる玄関づくり
上がり框(あがりかまち)とは
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「ビンテージ・キッチン・オンステージ」
https://www.renoveru.jp/renovation/93
玄関や土間において、“内と外”を分ける段差に取り付けられた横木が「上がり框」です。
日本では、玄関で靴を脱ぐ習慣があるため、玄関の上がり框は「家の顔」とも言われ、大事にされてきました。「家に上がる」という表現の通り、古くから日本人が持ってきた境界感覚がこの段差に現れています。
また、上がり框は空間を分ける役割に加えて、コミュニケーションを生み出す場としても重視されてきました。訪問者をわざわざ室内に迎え入れるほどでもないとき、上がり框に座ってもらうことで同じ目線の高さを保てるため、近所の人が訪れて玄関先でおしゃべりをするときなど気軽なコミュニケーションの場として重宝されていたようです。
ほかにも靴を履くときに腰かける、ガーデニングやDIYをするときの休憩場所や、買い物帰りの一時的な荷物置き場にするなど、さまざまな用途で活用できます。
上がり框(あがりかまち)を設置するメリット・デメリット
マンションは床下に配管を通すため、ほとんどの場合上がり框(=段差)ができます。あえて段差にカラフルなタイルを貼ってデザインに活かすなど、メリットとしてポジティブに転換することもできます。
ここでは、上がり框の段差のメリット(活かし方)と、注意が必要なデメリットをご紹介します。
メリット
- タイルやフローリング材の選び方で、デザインを楽しめる
- 斜めにしたり、丸みをつけたりすることで、玄関に個性をもたせることができる
- 斜めに配置すると、空間を広く見せる視覚効果がある
デメリット
- 段差があるため、バリアフリーにならない
- 段差があるため、お掃除ロボットでの掃除が難しい
将来、車椅子用のスロープをつくる可能性がある場合は、スロープの傾斜についても考えておくと安心です。玄関ドアから上がり框までの距離を決める際の大切な要素になります。また、10cm以下の段差は、10cm以上の段差よりもつまづきやすいと言われています。生活の中でのちょっとしたリスクを軽減するためにも、プロに相談しながら安心できる住まいづくりをしていきましょう。おうち全体の掃除機かけをお掃除ロボットに任せたい場合も、設計者に希望を伝えてベストな方法を見つけてみてください。
上がり框は、高さや形状、仕上げ材、デザインによって玄関のポイントにもなる部分です。オーダーリノベーションなど自由設計でおうちをつくる際は、ぜひご自身の理想の空間づくりに活かしてみてください。
上がり框のデザイン
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「家族が集まる空間と壁面に映り込む色、暮らし」
https://www.renoveru.jp/renovation/78
玄関に合わせて、多種多様な形状を選べる
マンションやアパート・集合住宅に多いのは、段差の縁に直線状に取り付けられている「ストレートタイプ」です。斜めになっている「カーブタイプ」の上がり框は、土間を広く見せることができるため、コンパクトな空間を有効活用できるデザインといえます。そのほか「L字型」や「コの字型」などの形があります。
バリアフリー住宅の上がり框
上がり框は、スロープと段差を取り入れてバリアフリーを意識したデザインにすることも可能です。国土交通省が定める「バリアフリー住宅」の基準では、集合住宅では11cm以下、戸建て住宅は18cm以下の上がり框の高さが望ましいとされています。介護を目的としたリノベーションやリフォームにおいては、段差を通常より低くしたり、なくしてしまったりするケースもあります。
上がり框の素材
上がり框は、上り口の段差になっているため、踏み込むときの荷重がかかります。耐久性のある素材を使用することが重要です。玄関と室内のバランスを見て、以下のような素材を自由に選ぶことができます。
木材
上がり框は家に入ってすぐ目につく場所であるため、高級感のある自然素材が人気です。なかでも「欅(ケヤキ)」は木目が美しく、耐朽性や弾力性があることから、旅館などの建物でもよく使われています。また、独特の光沢もあり、靭性(粘り)に優れている「楓(カエデ)」、肌触りの良い表面と硬度がある「樺桜(カバザクラ)」も使用されます。他にも、「楡(ニレ)」や「タモ」など、さまざまな種類の木材を選ぶことができます。あたたかみのある空間を演出したい方におすすめです。
石材
華やかな模様の「大理石」、色のバリエーションが豊富で耐久性がある「御影石」などの石材も上がり框に用いられます。石それぞれに異なる特性があるため、メンテナンス方法等の注意点をあらかじめチェックしておきましょう。
タイル
木材や石材のほかに、下地を塗ってタイルを貼る方法があります。タイルの種類によって大きく雰囲気を変えることができるため、デザイン性の高さを求める人におすすめです。最近では、サイズやカラー、タイルの形状のバリエーションが豊富なモザイクタイルが人気です。
こだわりの「上がり框」があるリノベーション事例
Case.1 カーブのかかった、優しい雰囲気の玄関框
「古民家のような空間をつくりたい」というご主人とその愛犬が暮らす、和の素材にこだわったお住まい。玄関の扉を開けると、ゆるやかなカーブを描く優しい雰囲気の上がり框が出迎えてくれます。土間の部分も広く、框の幅がたっぷりとられているので、ご趣味のアウトドアやワンちゃんとのお出かけ準備をするにもぴったりです。
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「柿渋の床、漆喰、梁と柱。古きを愉しむ家。」
https://www.renoveru.jp/renovation/192
Case.2 モザイクタイルが美しい、アール型の玄関框
ご夫婦とお子様の3人家族が暮らす、ポップカラーが素敵なリノベーション事例です。左手に見えるキッズルームと、右手に見えるウォークインクローゼットの開口部小口を塗装したブルーカラーがおうち全体のアクセントになっています。
色とりどりのモザイクタイルで仕上げられた玄関框は、一つひとつが異なる表情を見せてくれます。個性あふれるカラフルな配色は、眺めるたびに気分が弾みそうです。
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「ポップカラーが彩る家族のカタチ」
https://www.renoveru.jp/renovation/215
Case.3 家族が並んで使える、斜めラインの玄関框
新しいご家族が増えることがわかり、家族で広々暮らせるリノベーションを希望されたファミリーの事例です。上がり框を斜めに設けることで土間を広くし、お子様と一緒に並んでお出かけの準備ができるスペースに。木の温もりあふれる、あたたかみを感じる玄関です。
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「音楽を奏でる家族時間」
https://www.renoveru.jp/renovation/59
毎日の「ただいま」が楽しみになる玄関づくり
家の顔となる、玄関の「上がり框」。毎日の暮らしの中で必ず出入りする場所だからこそ、住まいや家族構成にあわせて素材やデザインにこだわりたいものです。
今回紹介した事例を参考に、上がり框をアクセントにした素敵な玄関づくり、ぜひ挑戦してみてくださいね。
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【記事監修】リノベる。設計担当安江浩(やすえひろし) 大学卒業後、設計事務所で戸建住宅の設計等を担当。様々な建築家とコラボレーションを経験後、オフィス什器メーカーにてオフィス設計に従事。 2012年リノベる入社後は設計担当として案件を担当し、現在は設計施工部門の管理職として現在に至る。 |