御徒町駅からほど近い「佐竹商店街」にある『篠原まるよし風鈴』。風鈴といえば、いつの時代も日本の夏の風物詩として愛されていますよね。今回注目したのは、全国から多くの人が訪れ、購入していくという「江戸風鈴」。300年も前から日本の夏を彩り、人々の心を魅了してきた風鈴について、代表の篠原正義さんにお話を伺ってきました。
職人が届ける「江戸の夏」の音色
東京でたった二軒の江戸風鈴店
『篠原まるよし風鈴』は新御徒町から佐竹商店街アーケード内を入ってすぐの場所にあります。佐竹商店街は明治31年に作られた、日本で二番目に古い商店街。近くに樋口一葉も住んでいたという由緒あるエリアで、飲食店や洋品店などがずらりと軒を連ねています。
ここでつくられている「江戸風鈴」とは、和ガラスと呼ばれる独特な製法で作られる風鈴のこと。300年もの伝統があるそうですが、この江戸風鈴を作っているのは、今では都内にたった二軒。こちらの『篠原まるよし風鈴店』と、篠原さんのお兄さんが営んでいる『篠原風鈴本舗』だけなのだそうです。
熟練の職人技が、一つひとつの江戸風鈴を生み出す
「ひとつとして同じ音が鳴るものはない」とも言われる、江戸風鈴。篠原さんに、どうやってつくっているのかを教えていただきました。
まず、「宙吹き(ちゅうぶき)」と呼ばれる方法で、溶かしたガラス玉に二回、空中で空気を吹き込んで成形します。
二回目に膨らませた部分は割り取って、切り口を整えます。ここは、風鈴にしたときに振り管(風鈴の細長いガラス棒)が触れて音を出す鳴り口の部分で、あえてギザギザになっているのが江戸風鈴の特徴です。ツルツルではなくギザギザにすることで、単調ではない、さまざまな響きを楽しめる風鈴になるのだそう。最後に、内側から絵つけをして出来上がりです。
篠原さんが成形から鳴り口を整えるまでは、ものの数分。しかし、こんなに速く作れるのは、この道数十年だからこその熟練技です。一人前になるまでに、少なくとも10年はかかるといいます。
日本で二番目に古い商店街で、モノづくりの心を知る
篠原まるよし風鈴店では、宙吹きや絵付けの製作体験もしており、全国から中学生もたくさん訪れます。この日も問い合わせがいくつも来ていました。
「綺麗に作れなくてもいいんです。モノづくりには、作り手の思いがこもっている。それを、制作体験を通じて分かってもらえれば。自分の手で一生懸命作った風鈴なら、どれも◎です。私たち職人が作ったものは、綺麗でないといけませんが」
絵つけの中には「判じ絵」という一種のなぞなぞのような絵もあります。たとえば、「蕪と小判」=「家富:かぶ」で家の繁栄を表したり、「宝船と松」=「宝を待つ」という意味に。もともと風鈴は縁起物でもあり、金魚は金運アップ、花火は魔除け、椿は不老長寿につながるとのこと。知れば知るほど、奥が深いですね。
若い世代へ、モノづくり伝統を受け継ぐ
風鈴の音色に「日本の心」を感じて
江戸風鈴は、成形も絵つけもすべて手仕事。そのため、一つひとつ大きさも形も音色も微妙に異なります。全国からたくさんの人が江戸風鈴を買いに訪れるとのことですが、なぜそんなにも多くの人を惹きつけるのか、理由を伺ってみました。
「夏になるとスイカが食べたくなるでしょう?それと同じで、夏になると、チリンチリンという江戸風鈴の音色が恋しくなるんじゃないでしょうか」
水槽の金魚を愛でたり、風鈴を軒先に吊るして軽やかな音を楽しんだり、江戸時代から私たち日本人は、夏に涼を感じる工夫をしてきました。その感覚は、時代が変わっても私たち日本人の心にずっと受け継がれていくものなのかもしれません。
この伝統を受け継ぐべく、今は2人の息子さんが修行中。若い世代ならではの個性あふれる絵付けで、可愛らしい作品がぐんと増えたといいます。手前の黄色い風鈴は、篠原さんの家で飼っているというワンちゃんを描いたもの。どこかひょうきんな表情が愛くるしいです。
「自分の手で世界にひとつだけのものを作れる」という喜び
こちらは「自分の手で世界にたったひとつのものを作れる」という喜びを感じ、この仕事を選んだという息子さん。大学では建築を勉強していたといいます。お父さんの作品で、好きなものは?と尋ねてみました。
「風琴(ふうきん)という復刻版の風鈴です。姿がきれいで好きですね。こんな風鈴は、僕にはまだまだ作れません」
黙々とそれぞれの作業をこなしている父子に、親子の見えない絆を感じました。技術だけでなく、作り手としての心も親から子へしっかりと受け継がれていくことでしょう。
職人技が生み出す「夏の音色」という宝物
毎年、チリンチリンと鳴る風鈴の音色を聴くと、どこかホッとした気持ちになる……そんな方も多いのではないでしょうか。風鈴にも色々な種類がありますが、音色も見た目も世界にたったひとつだけの江戸風鈴は、まさに「一生もの」という言葉がしっくりくるように感じました。
下町エリアを散策すると、モノづくりの歴史を残す建物や店が今でも数多く残っています。元気な商店街や、昔から続いているお店で「自分だけのとっておき」を探すのは、まるで宝探しのよう。そんな出会いも、下町暮らしの楽しみのひとつかもしれません。夏の訪れを告げてくれる江戸風鈴、自分らしい柄と音色のものを探してみてはいかがでしょうか。
篠原まるよし風鈴
【住所】東京都台東区台東4-25-10
【営業時間】10:30~18:00(日曜日は~17:00)
【定休日】月曜日
【公式サイト】 http://www.sam.hi-ho.ne.jp/maruyosi/