【Vol.62】業界の垣根をこえて、生活者の声をつなぐ架け橋に。LIVING TECH Conferenceに見る、LIVING TECH協会の存在意義

2020.12.08
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2020年10月29日、リノベる山下が代表理事を務める一般社団法人LIVING TECH協会による“LIVING TECH Conference2020”が開催されました。そのキーノートをレポートします。

LIVING TECH Conference2020

2017年にスタートしたLIVING TECHカンファレンス。3回目を迎える今年から、新たに設立された「LIVING TECH協会」が主催する大規模カンファレンスとしてリニューアルしました。

全13に及ぶセッションのすべてが、オンライン配信。二子玉川 蔦屋家電での企画展示「暮らしとテクノロジー展」も行われるなど、より多くの方に「これからの暮らし」を考えるきっかけを提起する機会となりました。今回の記事では、 なぜ今、日本においてLIVING TECHの活動が必要なのか? を改めて整理するために、「LIVING TECH協会発足の意義。未来の日本のために今、企業がすべきこと」と題して開催されたキーノートセッションを紐解いてみたいと思います。

登壇者は、LIVING TECH協会 代表理事を務める リノべる代表の山下、同じく代表理事のアマゾンジャパン合同会社 古屋美佐子氏、そして著書『アフターデジタル』シリーズで知られるビービットの藤井保文氏、前国土交通省国土政策局長の坂根工博氏。日経クロステックおよび日経アーキテクチュア編集委員の桑原豊氏によるモデレートで議論が進みました。

コロナ禍で、暮らしはどう変わったか?


この世の中の状況を鑑みるに、まずコロナ禍の影響に触れないわけにはいかないでしょう。「自宅に書斎を求める声が40%から70%にまで増え、マス化した(山下)」「住まいのWiFi環境の整備が確実に進んだ実感がある(古屋氏)」との声もありながら、総じて言えるのは、日本のデジタル化の遅れが改めて明らかになったということ。対比としてビービット藤井氏からは、極めて印象的な中国・上海のリアルな状況が紹介されました。中国ではすでに“コロナ以前”とほぼ同じ生活に戻っている印象だと藤井氏。その背景には明らかに、DX、以前から生活のなかに浸透しきったデジタルの存在があると言います。例として挙がったのが、アリババが展開するOMO(Online Merges with Offline)型スーパーマーケット「フーマーフレッシュ(盒馬鮮生)」。店舗の3km圏内であればアプリ注文から30分で配送されるというサービスです。

>  “フーマーの発想は、日本の小売業のデジタル技術活用とは前提から違う。店舗を構えてそこから顧客に30分で配送するにはどうすればいいかではなく、30分で届けるにはどうチェーンを組めばいいのかを考えている。重要なのは、最も優れた顧客体験とは何かを考えることからスタートし、それに合わせてビジネスプロセスを組むこと。結果、街の中心に倉庫が必要という発想になり、倉庫を顧客がウォークインできる店舗にしてしまおうという発想が生まれている”(藤井氏)

「オンラインとオフライン両方を使えばOMOというわけではない」という藤井氏の言葉に象徴されるように、テクノロジー活用という考え方そのものに見直されるべき点がありそうです。

LIVING TECHと国の指針であるSociety5.0

途中、参議院議員で2016年8月から2019年9月まで経済産業大臣を務められた世耕弘成氏からビデオメッセージが。デジタルとフィジカルとの融合による新たな社会システムとして内閣府より提起されたSociety5.0の実現に向け、「分野横断的な取り組み」「ビッグデータの共有」「都市間・省庁間の縦割りの解消」「企業同士の連携を促す抜本的な制度改革」の必要性が語られました。

これを受け、住宅政策を含む国土政策や働き方改革に携わってこられた坂根氏から語られたのが、仕事、住まい、コミュニティなど、さまざまな観点における“人間の生き方”の変化。人間が手がけるべき領域と、ロボットやAI技術に代替される領域との区別がますます進んだ先に、生き方・暮らし方はどのように変化していくのか。その変化を見据えた上で、社会インフラ、住宅、オフィス、屋外空間……いわば“都市そのもの”のあり方や定義を柔軟に変えていくべきだろうと坂根氏。そして「職・住・遊・学が一体化した都市」という一つの理想を実現するためにも、行政はデータ整備や個人情報保護制度の制度見直しなど、民間事業者の活動の場をより拡充するための取り組みを加速すべきであり、実際に進んでいくだろうとのこと。ここから話題は、官と民との関係へと移っていきます。

民と官の理想の関係とは?

一言でどちらがいいと言い切ることは難しいとしながらも、「中国では官と民の役割分担がよりはっきりしている」と藤井氏。国民識別番号(マイナンバー制度に近い国民一人ひとりに固有の個人ID)を徹底しながらも、企業に対してあらゆるデータの連携を強制するわけではなく、あくまで市場競争によるイノベーションの創出を加速するためのバランスがとられているといいます。「自分を含め、日本は無意識に官に甘えている部分があるかもしれない」ともらす山下。

一方、デジタルとリアルの垣根がなくなるにつれ、相対的に「民の側に大きな力が与えられる時代になっていく」と藤井氏。リアルが優位だった従来は、顧客を取り巻く“アーキテクチャ(例えば、車道や歩道が分かれて、皆がそれを分けて使うように、人々の行動を規定したり変えたりするように設計された「環境」)”の構築は行政の役割だったものの、デジタルであればそれらを全て民間企業が用意できるようになる-この変化についての言及は、これからの時代の民間企業に求められる役割・機能を強く示唆していると言えるでしょう。

LIVING TECHをリードするのは「ユーザー」である

官に依存しないアーキテクチャの構築が可能となる時代に、行政も企業も含め、全ての活動の起点となるものは何なのか。それは、ユーザー(≒生活者、国民)一人ひとりの“体験”の向上。ユーザーがどう考え、どんなことに困り、何を求めているのか。全てはそこから始まるべきだという声に、各登壇者ともに強く共感した様子。印象的だったのは、リノべる山下が紹介した、暮らしかた冒険家 伊藤菜衣子氏(※LIVING TECH Conference 2020 オープニングセッションに登壇)とのエピソード。

> “伊藤さんが、決して「便利なもの」が広まるわけではないというようなこと仰っていて。便利だから使うわけではないんだと。その視点が、自分には全くなかった。自分はユーザー視点に立ったつもりで「より便利なものを」「よりコストを抑えて」と考えてきたが、「そうじゃないんだ」という声に心からハッとさせられた”(リノべる山下)

LIVING TECH協会が、「ユーザーの声」と「サービス提供者」「国」を繋ぐ架け橋に

ユーザーの声を細かな網の目ですくい取り、それを起点に新たなアーキテクチャを構築し、サービスを提供していく。一企業の立場ではどうしても「自社の売りたいモノを売る」というプロダクトアウト的な発想が先行してしまいがちですが、そこに陥らないようにするためにも、官と民はもちろん、企業間・業界間の垣根を越えた連携が極めて重要になってきます。そしてそこに、LIVING TECH協会の存在意義もあるのだと言えるでしょう。
「さまざまなお客様の視点を持ち寄ることができるという意味でも、(LIVING TECH協会のように)分野を横断する場の存在はとても大事なものになっていくと思う」と古屋氏。その結果、LIVING TECH協会がユーザーの声の代弁者となり、民間企業の更なる連携やそれに基づく新たなサービスの開発、またそうした動きを加速する国の取り組みを促す存在になっていく-そんなLIVING TECH協会の今後の方向性が垣間見えました。

*関連サイト
LIVING TECH Conference 2020 公式サイト

<前の記事はこちらから
【Vol.61】リノベる新オフィス移転レポート③

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